- 5G/4G/LTEの特許を担当することになったけど、5G/4G/LTEの技術を全然知らない。
- 5G/4G/LTEの技術には専門用語が多すぎて、技術を理解するのが難しい。
- まずは5G/4G/LTEの技術の全体像を把握したいけど、書籍に記載されている内容は細かすぎて全体像をなかなか把握できない。
5G/4G/LTEを担当することになった知財担当者は、標準化および標準必須特許 (Standard Essential Patent: SEP) という特殊性を考慮すること以上に、5G/4G/LTEの発明を理解することに苦労するでしょう。
なぜならば、5G/4G/LTE の発明を理解するためには、その発明の前提となっている多数の技術を理解しておく必要があり、また多くの専門用語を知っておく必要があるからです。
私自身も、10年以上にわたって移動体通信特許の権利化や係争の支援に携わってきましたが、やはり最初のうちは発明を理解するのにかなり苦労をしました。
そこで、 本サイトでは、5G/4G/LTEを担当することになった知財担当者にとって発明の理解がより容易になるように、5G/4G/LTE の基本技術を説明します。
特にこの記事では、第1回として、5G/4G/LTEなどの移動体通信システムの全体像を説明します。
移動体通信システムを構成する3つの要素
5G/4G/LTEの発明を理解するための最初の一歩は、発明がシステム内のどの部分の技術なのかを把握することです。
しかし、5G/4G/LTE などの移動体通信システムは様々なノードを含んでおり、さらに4G/LTE から5Gといった世代の移り変わりに応じてノードの名称の変更やノードの統合/分割があるため、慣れていない人にとっては複雑に見えてしまいます。
そこで、まずは移動体通信システムの全体像を非常にシンプルに捉えることが重要です。詳細は、シンプルな全体像を捉えた後で少しずつ知っていけばいいのです。
まず、移動体通信システムは、『ユーザ機器 (User Equipment: UE)』 と『ネットワーク』で構成されています。
さらに、『ネットワーク』は、『無線アクセスネットワーク (Radio Access Network: RAN)』と 『コアネットワーク (Core Network: CN)』で構成されています。
すなわち、 移動体通信システムは、『UE』『RAN』『CN』という3つの要素で構成されています。
まず最初は、移動体通信システムがこれらの3つの要素に分われることを頭に入れておきましょう。
なお、4G/LTEのシステムは、EPS (Evolved Packet System) と呼ばれ、5Gのシステムは、5GS (5G System) と呼ばれます。
以下では、『UE』『RAN』『CN』をそれぞれ説明していきます。
要素①:ユーザ機器 (UE)
『ユーザ装置 (User Equipment: UE)』は、移動体通信システムのユーザが使用する通信装置です。
UEの典型的な例は、皆さんが使用しているスマートフォンです。UEの他の例としては、移動体通信を行う車載装置やIoT (Internet of Things) 機器などもあります。もちろんUEはこれらの例に限られません。
UEは、『ME (Mobile Equipment)』と『UICC (Universal Integrated Circuit Card)』で構成されています。
スマートフォンの例を挙げると、MEは、スマートフォンの本体で、UICCは、スマートフォンの本体に差し込むSIMカードです。
要素②:無線アクセスネットワーク (RAN)
『無線アクセスネットワーク (Radio Access Network: RAN)』は、ネットワークのうち、UEとの無線通信を行う部分です。
RANは『基地局』を含みます。『RAN』=『基地局』と大雑把に認識しておけば問題ありません。厳密には、RANは他のノード(例えば、リレーノードなど)も含み得るのですが、RANの主役は圧倒的に基地局です。
4G/LTEのシステムでは、RANは、E-UTRAN (Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network)と呼ばれ、基地局は、eNodeB (eNB) と呼ばれます。
5Gのシステムでは、RANは、NG-RAN (Next Generation‐Radio Access Network)と呼ばれ、基地局は、gNodeB (gNB)と呼ばれます。
RANにおいて、基地局は、セルと呼ばれる自らのカバレッジエリア内に位置するUEと無線で通信します。 RANでは、多数の基地局のカバレッジエリアが、ネットワークの通信エリアを形成します。
要素③:コアネットワーク (CN)
『コアネットワーク (Core Network: CN)』 は、ネットワークのうち、UEとの無線通信以外の様々な機能を提供する部分です。
RANの基地局は、バックホールと呼ばれる回線でCNに接続され、CNは、外部ネットワークに接続されています。基地局に無線接続されるUEの視点から見ると、CNはRANの後方にあるイメージです。
CNは、様々な『コアネットワーク(CN)ノード』を含んでいます。これらのCNノードは、各種制御の処理を行う制御プレーン (Control Plane: C-Plane)のノードと、データ転送の処理を行うユーザプレーン (User Plane: U-Plane)のノードに分かれます。
まずは、このように単純化された形のCNを頭に入れておきましょう。
4G/LTEのコアネットワーク (CN)
例えば、4G/LTEのCNは、EPC (Evolved Packet Core)と呼ばれ、C-PlaneのノードとしてMME (Mobility Management Entity) およびHSS (Home Subscriber Server)などを含み、U-PlaneのノードとしてS-GW (Serving Gateway) および P-GW (Packet data network Gateway) を含みます。
C-Plane
MMEは、様々な制御を行います。この様々な制御には、EPCでのUEの登録、UEの移動管理、U-PlaneのS-GWに関連する制御などが含まれますが、まずは細かいことは気にせずに、MMEが様々な制御を行っているらしいと覚えておけば十分です。
HSSは、様々な情報を保持し、提供します。この様々な情報には、加入者情報などが含まれますが、まずは細かいことを気にせずに、HSSが様々な情報を保持し、提供しているらしいと覚えておけば十分です。
C-Planeには、MMEとHSSの他にもCNノード(例えば、PCRF、ePDG、ANDSFなど)がありますが、MMEが最も頻繁に出てきますし、その次にはHSSがよく出てきます。そのため、まずは、EPCのC-Planeには、MMEとHSSがあり、その他にもいくつかCNノードがあるらしい、と覚えておきましょう。
U-Plane
S-GWとP-GW がデータ転送を行います。
P-GWは、外部ネットワークに接続され、外部ネットワークとEPCとの間のデータ転送を行います。
S-GWは、基地局に接続され、P-GWと基地局との間のデータ転送や、基地局間のデータ転送などを行います。
5Gのコアネットワーク (CN)
5GのCNは、5GC (5G Core Network)と呼ばれ、C-planeのノードとしてAMF (Access and Mobility Management Function) 、SMF (Session Management Function) および UDM (Unified Data Management) などを含み、U-planeのノードとしてUPF (User Plane Function)を含みます。
C-Plane
AMFとSMFは、様々な制御を行います。4G/LTEのMMEが5GではAMFとSMFに分割されたと大雑把に理解しておきましょう。AMFは、 UEの登録、UEの移動管理などの様々な制御を行い、SMFは、U-PlaneのUPFに関連する制御を行いますが、 まずは細かいことは気にせずに、AMFとSMFが様々な制御を行っているらしいと覚えておけば十分です。
UDMは、様々な情報を保持し、提供します。 4G/LTEのHSSが5GのUDMにあたると大雑把に理解しておきましょう。 UDMが保持する様々な情報には、加入者情報などが含まれますが、まずは細かいことを気にせずに、UDMが様々な情報を保持しているらしいと覚えておけば十分です。 なお、一応細かいことに少し触れておくと、UDMは、様々な情報を自ら保持せずに、UDR (Unified Data Repository) に保持することもできます。
C-Planeには、AMF、SMFおよびUDMの他にもCNノード(例えば、PCF、AUSF、NSSF、NEF、NRF、AFなど)がありますが、AMFが最も頻繁に出てきますし、その次にはSMFとUDMがよく出てきます。そのため、まずは、5GCのC-Planeには、AMF、SMFおよびUDMがあり、その他にもCNノードがあるらしい、と覚えておきましょう。
U-Plane
U-Plane では、UPFが データ転送を行います。 4G/LTEのS-GWとP-GWが5GではUPFに統合されたと大雑把に理解しておきましょう。
なお、単一のUPFが外部ネットワークと基地局との間のデータ転送を行うこともできますし、(S-GWとP-GWのセットと同様に)直列に接続された2つ以上のUPFが外部ネットワークと基地局との間のデータ転送を行うこともできます。
発明の理解にあてっての留意事項
発明を理解しようとするときには、まず発明がシステム全体の中のどの部分の技術なのかを把握しましょう。
発明がシステム全体のどこにあるかを把握すれば、どこに着目して、どこをあまり考えなくてもよいかが明確になります。結果として、発明理解の負担は軽減されるでしょう。
例えば、発明が、基地局がUEへ新規の制御情報を送信するという技術であれば、基本的にはRANとUEに着目すればよく、CNのことはあまり考えなくてもよくなります。
例えば、発明が、UEが新規の内部処理を行うという技術であれば、基本的にはUEに着目すればよく、RANとCNのことはあまり考えなくてもよくなります。
標準必須性特許 (SEP) の観点からも、発明がシステム全体のどの部分の技術かを把握できれば、確認すべき3GPP TS (Technical Specification)の範囲を絞り込むことができます。
なお、システムの全体像だけではなく、『プロトコル』『インターフェース』『チャネル』などの全体像もさらに把握していけば、さらに着目するポイントを絞り込むことができるようになります。
まとめ
移動体通信システムは、『ユーザ機器 (UE)』『無線アクセスネットワーク (RAN)』 『コアネットワーク (CN)』 で構成されています。
『UE』は、移動体通信システムのユーザが使用する通信装置です。 典型的には、UEは、スマートフォンです。
UEは、『ME 』と『UICC』で構成されています。
『RAN』は、ネットワークのうち、UEとの無線通信を行う部分です。
RANは『基地局』を含みます。『RAN』=『基地局』と大雑把に認識しておけば問題ありません。
『CN』 は、ネットワークのうち、UEとの無線通信以外の様々な機能を提供する部分です。
CNに含まれる『CNノード』は、各種制御の処理を行うC-Planeのノードと、データ転送の処理を行うU-Planeのノードに分かれます。
発明を理解しようとするときには、まず発明がシステム全体の中のどの部分の技術なのかを把握しましょう。
これにより、 どこに着目して、どこをあまり考えなくてもよいかが明確になります。
結果として、発明理解の負担は軽減されるでしょう。
標準必須性特許 (SEP) の観点からも、 確認すべき3GPP TSの範囲を絞り込むことができます。
以上、第1回として、5G/4G/LTEなどの移動体通信システムの全体像を説明しました。
第2回では、 5G/4G/LTEなどの移動体通信システムにおけるノード間のインターフェースを説明しておりますので、こちらも是非ご覧ください。